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東京地方裁判所 昭和43年(ワ)10654号 判決

原告 甲野太郎

当事者参加人 甲野花子

被告 乙山次郎

主文

一  原告及び参加人の請求はいずれもこれを棄却する。

二  訴訟費用は原告および参加人の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告

「被告は、原告に対し、金六〇万一五五〇円及びこれに対する昭和三四年七月一一日から支払済に至るまで年五分の割合による金員の支払をせよ。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決及び仮執行の宣言

二  被告

(昭和三七年(ワ)第四二〇七号事件)

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決

(昭和四三年(ワ)第一〇六五四号事件)

1  当事者参加の申立につき、「本件参加申立を却下する」との判決

2  参加人の請求につき、「参加人の請求を棄却する。訴訟費用は参加人の負担とする。」との判決

三  参加人

「被告は、参加人に対し、金四一万八〇五〇円及びこれに対する昭和三四年七月一一日から支払済に至るまで年五分の割合による金員の支払をせよ。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決及び仮執行の宣言

第二当事者の主張

一  当事者参加の申立に関する参加人及び原・被告の主張

1  参加人

原告は、被告に対し、当初、別表(一)に記載の物品のほかに、別表(二)に記載の物品をも原告の所有に属するとして損害賠償を請求していたので(参加人は、別表(二)に記載の物品が参加人の所有であることを主張して、民事訴訟法第七一条後段の規定により、本件当事者参加の申立をしたものである。そして、原告は、右物品が参加人の所有であることを争わないから、このような場合には、被告だけを相手方とする当事者参加の申立も適法である。

2  原告

原告は、被告に対し、当初、参加人主張のとおりの損害賠償を請求していたが、参加人から本件当事者参加の申立があり、かつ、別表(二)に記載の物品が参加人の所有であると判明したので、右物品に関する損害賠償請求の訴えを取り下げ、結局原告の求める裁判に記載のとおりの請求をするものである。

3  被告

原告が参加人主張の物品のすべてについて被告に損害賠償請求をしていたことは争う。別表(二)に記載の物品のうち、原告がその所有に属するとして損害賠償を求めていたのは、フランス製婦人帽のみで、その他の物品については請求をしていなかつたのであるから、当該物品に関しては全く新たな請求をすることになり、したがつて、本件当事者参加の申立は不適法である。

また、当事者参加の申立は、原・被告双方を相手方としてしなければならないのに、本件当事者参加の申立は、被告だけを相手方としてなしているのであるから、この点でも不適法である。

なお、被告は、原告の前記訴えの取下げには同意した。

二  原告及び参加人の請求原因

1  被告は、福島県弁護士会所属弁護士であるが、昭和三四年四月三日、訴外丙川太郎(以下、丙川という。)から、丙川・原告間の会津若松簡易裁判所昭和三三年(ユ)第九三号家屋明渡調停事件の調停調書正本に基づく別紙物件目録記載の土地及び建物(以下、本件土地建物という)の明渡の強制執行申立の委任を受け、そのころ、丙川の訴訟代理人として、同裁判所から執行文の付与を受けたうえ、福島地方裁判所会津若松支部執行官(右の当時は執行吏であつたが、執行官と読み替える。以下、同じ。)甲山一郎に対し、右調停調書の執行力ある正本に基づいて本件土地建物の明渡の強制執行の申立をした。

2  そこで、右執行官は、同年六月三日、原告及び参加人の居住していた本件建物に臨み、本件土地建物の明渡の強制執行に着手したが、その際、被告は、丙川の代理人として、丙川の雇い入れた約二〇名の人夫を同行して右強制執行に立ち会い、右人夫を指揮監督して執行官の執行行為を補助させた。

3  ところで、本件建物内には、原告・参加人及びその家族所有の家財が多数あつたのであるが、被告及び執行官は、強制執行の短時間終了を期するあまり、右人夫に家財の屋外搬出を急がせたため、右人夫が家財を庭に投げ出すなどして、その搬出作業がきわめて乱暴となり、その結果、多数の家財が毀損された。

4  また、執行官は、原告らが右乱暴な執行行為による身体への被害を避けるため、本件建物から避難して不在であつたので、屋外に搬出した家財の保管を被告に依頼し、被告は、これを承諾して、本件建物から約二キロメートルも離れている訴外丁野太郎方物置まで右家財を人夫に運搬させたが、右運搬作業は午後八時過ぎまでに及んだうえ、これに従事した人夫が乱暴な取扱いをした結果、原告及び参加人所有の多数の家財が紛失し、毀損された。しかも、右物置は、屋根はあつたものの、周囲の壁はないに等しく、保管場所としては極めて不十分なものであつたので、同所に置かれた原告及び参加人所有の家財は、さらに紛失したり、風雨にさらされてかびが生えるなどした。

5  原告及び参加人は、以上のような、本件建物からの搬出に始まつて運搬・保管に至るまでの一連の不適切な取扱いにより、その所有の家財が多数紛失し、毀損され、その結果、原告は、別表(一)に記載のとおり合計金六〇万一五五〇円の損害を、また、参加人は、別表(二)に記載のとおり合計金四一万八〇五〇円の損害をそれぞれ被つた。

6  被告は、丙川の代理人として、本件強制執行に立ち会い、丙川の雇い入れた人夫を指揮監督して執行官の執行行為を補助させたのであるから、民法第七一五条第二項により、原告及び参加人が被つた前記の損害を賠償すべき責任がある。

7  さらに、被告は、執行官の依頼に応じて屋外に搬出された原告及び参加人所有の家財の保管をなしたものであるから、義務なくして原告及び参加人のために右家財の保管を始めたものというべきであり、したがつて、被告は、事務管理者として、善良なる管理者の注意をもつてその保管に当るべきところ、右注意義務に違反して前記のとおり不適切な保管(保管場所への運搬も含む。)をなしたから、これによつて原告及び参加人が被つた前記の損害を賠償すべき責任があるといわなければならない。

8  よつて、原告及び参加人は、被告に対し、不法行為及び債務不履行に基づく損害賠償として、原告については金六〇万一五五〇円、参加人については金四一万八〇五〇円及び右各金員に対する不法行為及び債務不履行の後(原告及び参加人が前記保管場所から家財を引き取つた日の翌日)である昭和三四年七月一一日から支払済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うことを求める。

三  請求原因に対する被告の認否

1  請求原因第1項の事実は認める。

2  請求原因第2項の事実のうち、被告が人夫を指揮監督したことは否認し、その余の事実は認める。

3  請求原因第3項の事実のうち、執行官及びこれを補助した人夫が、本件土地建物の明渡の強制執行に当り、本件建物内に存した家財を屋外に搬出したことは認めるが、その余の事実は否認する。

4  請求原因第4項の事実のうち、本件土地建物の明渡の強制執行終了時に原告及び参加人が本件建物にいなかつたこと並びに屋外に搬出された家財が訴外丁野太郎方物置に搬入・保管をされたことは認めるが、その余の事実は否認する。執行官は、右のとおり強制執行の終了時に原告及び参加人がいなかつたので、丙川から強制執行完了後の本件土地建物の引渡を受ける権限を授与されてその受領のために来ていた訴外乙川二郎に右搬出された家財の保管を依頼し、同人がこれを承諾して右家財を右物置に搬入し、保管したものであり、被告はこれについて何ら関与していない。

5  請求原因第5項の事実は否認する。

6  請求原因第6・7項の主張は争う。

すなわち、仮に原告及び参加人がその主張の損害を被つたとしても、右損害は、執行官の本件土地建物の明渡の強制執行の遂行上生じたものというべきであるから、国がこれを賠償すべき責任があり、被告は何らその責任を負わないものといわなければならない。ちなみに、原告は、本訴請求と同一の事実関係のもとに、甲山執行官の不法行為を理由として国家賠償を求める訴えを提起し(東京地方裁判所昭和三四年(ワ)第八二四八号)、一部の家財について執行官が前記の明渡強制執行終了後の保管責任を尽さなかつたとして、金八万二四六〇円の賠償請求が認められ、すでに確定している(東京高等裁判所昭和三八年(ネ)第二四七四号、昭和三九年(ネ)第九二四号)。

また、被告は、丙川の代理人として本件強制執行に関与したものであるから、代理人としての行為に基づく損害賠償責任は、本人である丙川に帰属するのであり、被告には及ばないというべきである。

7  請求原因第8項の主張は争う。

四  被告の抗弁

1  訴外丁野太郎方物置に搬入された家財について、仮に被告が保管義務を負つていたとしても、原告及び参加人は、右家財が右物置に保管されていることを本件強制執行終了後間もなくして知つたのであるから、遅くとも昭和三四年六月中には右家財を引き取ることができたというべきである。しかるに、原告及び参加人は、右家財を故意に引き取らず、若しくは漫然と放置しておいたため、たまたま同年七月初旬に襲つた予想外の豪雨によつて右物置に保管中の家財が汚損するに至つたのであるから、右家財の損害は、もつぱら原告及び参加人の故意若しくは重大な過失によつて生じたものであり、その責任を被告に負わせることは許されないというべきである。

2  また、参加人は、遅くとも昭和三四年七月一〇日までには、本件の損害及びその加害者を知つたのであるから、本件当事者参加の申立時(昭和四三年九月一三日)には、その時から三年以上経過していた。

よつて、被告は、本訴において、右時効を援用する。

五  抗弁に対する原告及び参加人の認否

被告主張の抗弁はすべて争う。

六  原告の自認した抗弁事実

原告は東京高等裁判所昭和三八年(ネ)第二四七四号、昭和三九年(ネ)第九二四号の確定判決に基づき、国から金八万二四六〇円の賠償金の支払を受けた。

第三証拠〈省略〉

理由

一  当事者参加の申立に関する判断

参加人は本訴において被告のみを相手として当事者参加の申立をしているが、民事訴訟法第七一条の参加による訴訟は、同一の権利関係について原被告及び参加人の三者が互いに相争う紛争を一の訴訟手続によつて、一挙に矛盾なく解決する訴訟形態であるから、その申立は、常に原被告双方を相手方としなければならず、一方のみを相手方とすることは許されないと解すべきであり、従つて本件参加の申立は、民事訴訟法第七一条の参加の申立としては不適法である。しかし、本件参加の申立は、独立の訴の提起の要件をも具備しているのであるから、これを新訴の提起と解し、本訴の口頭弁論と併合して審理し、本判決において裁判することとする。

二  原告及び参加人の請求原因についての判断

1  請求原因第1項の事実は当事者間に争いがない。

2  次に第2項の事実のうち、甲山執行官が、昭和三四年六月三日、原告及び参加人の居住していた本件建物に臨み、本件土地建物の明渡の強制執行に着手したこと、その際被告が訴外丙川太郎の代理人として右強制執行に立会つたこと、被告が同行した約二〇名の人夫が右強制執行を補助したこと、以上の事実は当事者間に争いがない。

3  そして請求原因第3項の事実のうち、執行官とこれを補助した人夫とが右執行に当り本件建物内に存した家財を屋外に搬出したこと及び同第4項の事実のうち、右搬出された家財が訴外丁野太郎方物置に搬入・保管されたことも当事者間に争いがない。

4  ところで原告及び参加人は、右搬出に当り、被告及び執行官が強制執行の短時間終了を期するあまり、右人夫に家財の屋外搬出を急がせたため、人夫が家財を庭に投げ出すなどしてその搬出作業がきわめて乱暴となり、その結果多数の家財が毀損され、また右家財の訴外丁野太郎方物置への運搬作業は午後八時過ぎまで及んだうえ、これに従事した人夫が乱暴な取扱いをしたため、原告及び参加人所有の多数の家財が紛失し毀損されたと主張するのでこの点につき判断する。

本件全証拠によるも被告及び執行官が強制執行の短時間終了を期するあまり人夫に家財の屋外搬出を急がせた事実を認めることはできず、いずれも成立に争いのない甲第二六・第二七・第三一・第四三ないし第四八号証によると、訴外甲川四郎が人夫の総責任者として家財の搬出作業を指揮し、その下に訴外丙野五郎と同甲山六郎がさらに分担して指揮・監督を行い統率のとれた能率よい作業を行つたこと、作業開始時及び作業中、執行官及び被告が、人夫に対し度々原告は厳格な性格の人であるから家財が破損又は紛失しないように慎重に作業を行うべき旨注意を与え、また訴外甲川四郎もさらに人夫にその旨徹底させていたこと、従つて人夫は重い物は数人で運び、また食器その他壊れやすい物は女人夫が新聞紙を挿んだり、それで包んだりして箱に詰め、搬出距離の長い土蔵の作業ではリレー式で運ぶなどして慎重に作業を行つたこと、本件物置への運搬については訴外乙川二郎が訴外丙川二郎の手配したトラツク及びトレーラー付きジープで二回ずつ運んだが、その際荷物が破損しないように積み重ねて載せないようにしたこと、本件物置内への搬入も重い物又は壊れにくいと思われるトランク等を下に置きその上に布団、書画額その他の軽い物を載せて破損の生じないように注意したこと、以上の事実が認められるので搬出・運搬・搬入行為に違法な点は認められない。

右搬出作業につき、成立に争いのない甲第三九号証には「私から見ればほうり投げたというように足の踏み場もない状態でした。」「最後の人は庭のところに箱を投げるようにして置きました。」との記載があるが、これらは、本件における大量の家財搬出作業における作業状況の形容として「投げる」という語を用いて表現したものと解され、作業の慌ただしさと現場の混雑とを推測せしめるものではあるが、必ずしも文字どおり家財が放擲されるのを現認した趣旨の報告と見ることはできないから、右認定を左右するものではない。

なお成立に争いのない甲第二三・第二五・第三〇号証(後記措信しない部分を除く。)によると、昭和三四年七月九日の検証当時、訴外丁野太郎方物置に保管されていた家財のうち別表(一)の一1ないし4の書画の額にそれぞれ二箇所ずつ小さな破損個所があり、また同二の香炉台の一本の足の先端(木製)がかけていたこと、一五枚一組のレコードのうち同三のレコード三枚が割れていたこと、紫檀製の筆箱の三方の枠(糊付けされていたもの)がとれ、そのうち一本が見当らなかつたこと、同四のスーツケースの一個に重い物を載せたためと見られるかすかな凹みが三箇所あつたこと、別表(二)の一の婦人帽子の上部を覆つている布の一部が他の部分から切れていたこと、以上の事実が認められるが(別表(一)の九の食器類の破損については甲第三〇号証とこれにより成立の認められる同第二九号証にはこれに副う記載があるが、それだけでは直ちに措信できず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。)、前記各証拠によると、右の物件はいずれも購入後相当の年月の経過していたものと認められるので、本件執行に際しての破損とは断定できず、仮にそうだとしても、筆箱については糊付けされていたものであるから後記雨もりによる破損の可能性もあり、これを含め右の各物件の破損は、本件のような大量の家財の搬出・運搬・搬入といつた作業に際し、通常の注意を払つていたとしても不可避的に生じがちな軽微なものであるから、多くの家財の中に右に認定した程度の破損があることは前記認定の妨げとはならない。

また本件全証拠によるも、別表(一)(二)のへ欄に紛失と記載した各物件が前記搬出・運搬・搬入の各作業中又は保管中に紛失した事実を認めることはできない。

5  次に原告及び参加人は、家財の保管方法と保管場所とが不適当であつたため、これが風雨に晒されて汚損したと主張するので、この点につき判断する。

甲第二三・第二五・第三〇・第四八号証、成立に争いのない同第五〇・第五一号証によると、昭和三四年七月九日当時、別表(一)のうち四のトランクとスーツケース、五の布団、六の毛布、七の座布団、別表(二)のうち二の衣類等が風雨に晒されたためと思われる染み・錆・変色・かびなどが生じて汚損していた事実が認められる。

そこで次にその原因につき判断する。甲第二三・第二四号証によると、右家財の保管されていた物置は、南側が道路に面した間口四間、奥行三間の木造トタン葺で、中央の間口一間半の部分が二階建その余は平家建となつており、四囲の構造は、東側は目隠しの板塀をもつて外壁の代用としているが、これとコンクリート土台との間に約三寸の隙間が、また屋根との間にも隙間(但し、この部分は炭俵により風雨の吹き込みを防ぐようになつていた。)があり、南側の平屋部分は板の外壁があるが下方に約三寸の隙間があり、二階部分には二枚の開き戸があり、西側には板張の壁があるが、北側の一階部分は外部と遮断するものはなく、内部の構造は、いずれも土間(但し、中央二階建部分はコンクリート)となつていて西側及び東側土間は中央コンクリート土間から一尺二寸程高くなつているといつたかなり簡易な建物であることが認められる。しかし、いずれも成立に争いのない甲第四一・第四二号証によると、本件物置は薪・木炭等を入れる倉庫又は車庫として使用されていたが、通常の雨では雨もりしないので格納されている物品が濡れることはなかったこと、たまに風の強い日に北側から雨が吹き込んだ場合でも、物置の内部が約一メーチル程度濡れるだけでコンクリートの土間に水が溜るということはなく、東側溝も普通の雨では水があふれることはなかつたこと、以上の事実が認められるので、前記汚損が通常の雨で生じたものとは考えられないところ、甲第四八号証、成立に争いのない乙第五号証によると、右執行のほぼ一か月後である七月二日から三日にかけて会津若松地方に強風を伴つた降水量一五〇ミリメートルにも及ぶ大雨があつた事が認められ、前記の汚損の程度と合せ考えると、これが汚損の原因となつたと考えるのが相当である。

6  そこで次に右汚損について責任を負うべき者を検討することとする。成立に争いのない甲第二九・第二六・第二七・第三一・第四三号証によると、執行官は、原告及び参加人が本件強制執行の途中において家財を引き取ることなく本件家屋から退去したため、前示のとおり執行債権者訴外丙川太郎の代理人として執行に立会つていた被告に相談したうえ、家財を右執行債権者に保管させることとし、同人の子であつて事実上これと同視しうる訴外丙川二郎の指定した訴外乙川二郎に家財の引取を命じた事実が認められる。ちなみに、右乙川二郎は執行調書に保管人と記載されているが、前記各証拠によると、同人は、訴外丙川太郎が経営する株式会社丙川桐材店(訴外丙川二郎はその専務取締役)の使用人であつて、その関係で右太郎の代理人として本件家屋の引渡を受けるために執行に立ち会い、これに付随する作業として執行官から家財の引渡を受けたもので、本来本件家財引取のため立ち会つていたわけではなかつたと認められるので、執行官が調書に同人を保管人と記載したのは便宜的なものに過ぎず、同人の引取により、執行債権者訴外丙川太郎が保管を依頼されるに至つたというべきである。そして、訴外乙川二郎が丙川二郎の手配したトラツク及びトレーラー付ジープで家財を本件物置へ運搬したことは前示のとおりであり、また前掲各証拠によると、右搬入後は、誰も本件家財の保管に注意を払わず、昭和三四年七月九日に原告が引き取りに来るまで放置しその結果前記汚損を生じるに至つた事実が認められる。

ところで前示のとおり、原告及び参加人は強制執行当初は現場に居合せて執行の開始を現認していたのである。右両名が家財を引き取ることなく現場から退去したとは言え、右現認の事実ある以上、執行官、被告、訴外乙川二郎、同丙川二郎らは本件家財が比較的短時日のうちに引き取られるものと予想していたとしても無理はないであろう。ところで、前示のとおり本件物置は通常の風雨を防ぎうるものであり、従つて右に予想される程度の短時日の保管場所としては一応相当なものと認められるから、本件物置を家財置場として借り受けた訴外丙川二郎及び搬入作業を行つたに過ぎない訴外乙川二郎に過失があつたとは言えない。他方職務上保管義務を負つている執行官及びこれから依頼を受けて保管を開始した訴外丙川太郎は保管状況に注意して家財の汚損等を防止すべき義務があるから、前示のとおりこれを放置していた右両名に過失があることは明らかである(ちなみに、成立に争いのない丙第二・第三号証によると、原告は右執行官の不法行為により別表(一)、(二)の家財に損害を被つたことを理由に国を被告として損害賠償請求の訴を提起し、そのうち原告の損害と認められたものにつき合計金八万二四六〇円の支払を命ずる勝訴判決を得た事実が認められ、原告は右金員の支払を受けたことを自陳している。)。

そこで被告の責任について検討するに、本件証拠をもつてしては、被告が執行官から本件家財の保管を依頼された事実も自ら事務管理として保管を始めた事実も認めることはできず、また被告が訴外丙川太郎の委任を受けて本件強制執行の申立をしたからといつて、執行終了後も右訴外人を指揮監督して本件家財を保鉄すべき義務があるとは言えない(これは本来の保管義務者である執行官が負うべき義務である)。従つて、被告は、執行官又は訴外丙川太郎と並んで前記汚損につき責任を負うべき者ではない。

三  よつて抗弁事実について判断するまでもなく、原告及び参加人の被告に対する本訴請求をいずれも理由がないものとして棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九三条第一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 倉田卓次 直木茂 岡久幸治)

(別紙) 物件目録〈省略〉

別表(一)・(二)〈省略〉

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